戸目子のブログ

大人になった娘が読むことを想定して書く、日常や過去の覚書き

知との遭遇 ①【思想・アートとC子さん】

 

人は人生のどこかで、パラダイムシフトが起こるような "知との遭遇" をしているように見える。ある人は小学生で、ある人は人生を終える直前にも。本から、芸術から、人、ゲーム、旅、病気、昆虫から..etc.

 

戸目子の "知との遭遇" のひとつは19のとき、C子さんという人物との出会いからだった。
ある日偶然C子さんとバイトのシフトが重なって、「戸目子ちゃん会うの珍しいから一緒にモスバーガー行こうよ~♪」と誘われ軽くついていったその30分後の店内には、すんごい眼力で話し込む、前のめり姿の戸目子があった。

「これや!!」と思いました。
なんか、それまで会ったことがないタイプの人間が、それまで聞いたこともない内容のものを喋っている。それが自分に意味を持ってザッザッと刺さってくる感じがして、それまでゴチャゴチャに押し込められていた深層心理の中の何かが「ユリイカ!」と叫んだ。

 

興味深い人に会ったとき、戸目子はとにかく質問攻めにする習性がある。
この時も、C子さんからしたら、そこまでよう知らん12も歳下の子がなんかすんごい剣幕で質問してきてるなーと戸惑ったに違いないのに、引きもせずごまかしもなく一問一問真剣に考えて答えてくれた。しかもそれが、記憶にあるだけでも「旦那さんが浮気してたらC子さんはどう対処する?」とか「息子さん(当時8歳くらい)が死にたいって考えてたらどう対処する?」とか、今考えたら失礼やしホラー。

 

 

とにかく真摯に言葉を紡ぐ人でした。
戸目子はその日、「これほど自分の意見や思想をしっかりと持った大人、これほど "考える力" を持った大人を見たことがない」と感動したのを覚えています。
あれから20年弱、国内外で同じように理知的な人、感性豊かな人というのはたくさん見たけれど、C子さんの、ほぼ独学で得たであろう知見の独自性というのは、他者とは比較できない光を放っています。

当時は、彼女の思考の深さ、感性の鋭さ、自分への正直さ、物事への尽きない興味などを見ていて、一体なぜこの人はアカデミア(学問の世界)にいないのだろうと不思議に思っていたけれど。アカデミアこそは、能力や知性よりもまず環境と運をもった人を誘い込むかなり特権的(限定的)な場所だと、戸目子が身をもって実感できたのはかなり後になってからでした。

 

 

 

モスで意気投合した我々は、それからちょくちょく飲みに行くようになった。

普段は自分でもビックリするほど無精なのに、C子さんに限っては定期的にキッチリ会う約束を取り付け、大物ビジネスパーソンに会う新入社員みたいに身なりも整え、程良い緊張感をもって会いに行っていた戸目子。(その大物ビジネスパーソンは毎回ほぼ酔ってたし、新入社員は失言し放題だったけど)

 

 

C子さんは生まれも育ちも東京で、家庭も持っていて12歳上と、戸目子と環境が全然違ったけど、なんのギャップも感じず、話しているのがむちゃくちゃ楽しくていつも話題が尽きなかった。(まあそういう場合は大抵、年上側の心配りで成り立ってることが多いんだけど)

強いて言うなら、あらゆるマナー感覚だけは大きく違っていた。世に言う「育ちがいい」雰囲気を全体に纏っているC子さんと、細かいところでどう接していいか判断し損ねていた戸目子。今ではもっと気兼ねなく自分を出していけるけど、当時は「ほなねー」といった素のフランクさはちょっと失礼にあたるような気がして、彼女のものすごい丁寧さにむちゃくちゃリズムを狂わされていた。
そんなカルチャーの違いもまた、この関係性を特別なものにしていた気はするけど。

 

育ちがいい雰囲気、と書いたけど、当の本人はすさまじい男尊女卑の環境で苦しんできた人だった。今でも、身体を真っ二つに裂くほどの心理的な傷痕とともに生きている。

今考えると、「世の中そんなものだ」と、己の苦境や被害をもきれいに収めようとする人間が大半である中で、身を削りながらも対峙するC子さんのファイターな精神に惹きつけられたのかもしれない。戸目子は昔からファイターがすきなんやな。

 

 

C子さんと戸目子の共通点は、当時どちらも愛煙家であったことと、映画・読書・洋楽好きであったこと。

 

当時彼女に勧められたものの中で、特に尾を引いて戸目子の中に強く残っている作品をいくつか挙げておきたい。

 

 

【映画編】

Pulp Fiction 

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映画ファンを自称していた戸目子だけど、それまでタランティーノ作品は敬遠していました。対してC子さんは大のタラファンだったので、『パルプフィクション』を皮切りに戸目子もタラ作品を網羅することに。当時上映された『キル・ビル』『キル・ビル Vol.2』も一緒に観に行ったけど、タラのオタクぶりを堪能するにはC子さんの解説がとても役立ちました。

『パルプ・フィクション』は、サミュエル・L・ジャクソンを世に出したってだけでも歴史に残るものだけど、何回観ても何歳になって観てもまだ新鮮に観れるという魔法のような映画。

 

 

その男、凶暴につき

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深作欣二を中心に70-80年代の邦画にやけに詳しかったC子さんに、戸目子は何度か(主にバイオレンス系)邦画のVHSを両手いっぱい借りて帰ってました。戸目子もバイオレンスは大好物だけど、見た目や話し方のごっつう丁寧なC子さんが暴力やグロを熱く語るってのが個人的にツボでした。

『その男、凶暴につき』は、なんとフランスでもけっこう有名で、話題にのぼるとかなり盛り上がりました。まぁ、こういう感性はフランス人が好きそー。エリック・サティかかるしね。

 

 

【読書編】

C子さんが紹介してくれた本の中で最も影響を受けたのは、ルポタージュをはじめとするノンフィクションもの。

犯罪、女性差別、児童虐待、サイコパス、そしてカルトの世界。C子さんと戸目子は似て非なる人間だけど、ここらへんの世界に対するハンパない興味関心ぶりという共通点は、当時の戸目子の心の拠り所となりました。

ちなみに、C子さんの読書量というのは凄まじかったんだけど、彼女はなんかカメラアイだか速読的なスキルの持ち主だった。ある日、ゆっくり読む派の戸目子に「こないだ聞いたんだけど、みんな本を読むとき頭の中で音声変換して読んでるんだって?!」と聞いてきた。いやほな逆にどうやって読みよん?てかんじです。

 

ネグレクト 真奈ちゃんはなぜ死んだか

衝撃の一言。これを一度だけ読んでからもう20年経つというのに、今も頭にこびりついてるエピソードは10や20ではありません。家庭内という(親がその権力を振りまわし放題にできる)閉鎖された空間を、そこで起こったことを、ここまで詳細に抽出できたことって、ほかにあるだろうか。  

当時これを読んでおいて本当によかったと思う。というのも、当時は「子供」の視点からも読むことができたから。今、これを子供の視点で(親の視点でも)無事に読み進められる自信はありません。3歳児、すごいです。

また当時、虐待していた親二人の言動やその神経も少し理解できる自分に震えました。「子供時代の精神世界」を記憶している人ほど理解できるのではないかな。皮肉だけど。将来もし親になったら自分も(子供の言動に対して)こういう解釈をしてしまうのではないか、と読みながら怖くなった瞬間も何度かあった。

異常に未熟な大人が子供を育てる、というのは世の中少なくないと思うが、実際にここまでの悲劇となるまで周りに気づかれない(子供を救えない)という現実が悲劇である。

 

 

生きながら火に焼かれて

生きながら火に焼かれて

生きながら火に焼かれて

 

こちらも同じく衝撃の一冊。(恐らく)今でも匿名でフランスに生きる、ヨルダン出身の女性本人が書いた本。

これを読んだとき、人間の順応性の高さというのに凍りついた。生まれてからずっと家畜のように扱われれば、自分も自分というものに目がいかないのかもしれない、とか。この人は、自分がどんな見た目なのかも知らなかったというし、関心もなかったんだろう。そもそも興味とか関心とかいう「心」を持つことを許されない世界である。

女の子は人格を持つ権利のない「労働搾取」「性的搾取」「出産」目的だけの存在ゆえに、一家で何人か生まれたら、あとは生後すぐ殺されたりする。遠い中東の国の話と侮るなかれ、その延長線上である家父長制や性差別は、この平和な日本にも根強く根深く残っている。

これと一緒に貸してくれた『ファウジーヤの叫び』(ファウジーヤ・カシンジャ著) も強烈でした。こちらはFGM(女子割礼)を逃れて亡命したトーゴ共和国の女性の話。伝統とか風習とかいうもの一切合切を考えざるを得ない体験となりました。

ちなみに、その数年後、戸目子は中東研究が専門で少しだけメディアにも出てる日本の知り合いと話していたとき、さりげなくFGMの話を挿し入れてみた。その時戸目子はあえて「女性器切除」という訳を用いた。すると彼は、「まあ男にも割礼があるからねぇ」と言ったのだ。──ショックだった。(男女で、その目的も歴史も切除部位も施術法も結果も何もかも違う)FGMの存在はおろか、中東やアフリカの国々の性差別の実態をよく知らないがゆえの発言と解釈するので精一杯だった。(彼の専門分野に関わる)宗教や歴史、政治と女性差別は切っても切り離せない関係のはずなのに。

 

"結婚前、結婚後の女性の性的衝動を抑制し、女性のセクシュアリティを管理するというのがFGMを行う目的となっている。" 一部抜粋

 

 

 

【洋楽編】

The Black Eyed Peas

世界どこいっても不動の人気のこのバンド。アルバム "Monkey Business" をC子さんに贈呈され、その後ヨーロッパ生活で聴きまくっていたため、この16曲のサウンドはモロに当時の空気を蘇らせる。どの曲もハズレなしの傑作。

 

 

Portishead

 

ブリストル(英国)発祥のバンド。 アルバム "Roseland NYC Live" を貸してくれた。"Roads" と "Glory Box" がすき。戸目子は今でも一生懸命、ピアノでこの電子音楽の再現を試みてます。

 

 

戸目子はC子さんと会うときの空気感が好きだ。そこに漂う空気が "思考" を促すからであり、それがとても刺激的。コロナが落ち着いてくるだろう今年中には、またしっかり約束を取り付けなくては!!

 

 

 

 

 

 

その日メモ :

娘が卒園した!

これは、へたすると娘以上に幼稚園生活をエンジョイした戸目子がこれからけっこうダメージくるのでは? 二月から三月にかけて、ほぼ毎日出ずっぱりだったので、戸目子の人生で一番忙しかったといえる。

娘の小学校が始まるのを機に、戸目子もなんかすっかな。ということで、まずは夫に仕事を注文しておいた。

 

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卒園文集 娘のページ
みんなそれぞれに個性的な解答と似顔絵。親からのメッセージも載せてくれていい記念!