戸目子のブログ

大人になった娘が読むことを想定して書く、日常や過去の覚書き

スイス、おまえもか

 

先月、スイスでヴェールの着用を禁止する法律が施行された。

別にスイスという国に大した期待はないけど、というよりむしろ、戸目子家が住んでいた街(フランス語圏)では所々に典型的な白人保守社会臭がしていたので、さもありなん、ではあるけど。やはり悲しい。

てかマスクはええのん?

 

スイスで3月7日に実施された国民投票で、公共の場で顔を覆い隠す服装を禁止する法案が賛成51.2%、反対48.8%の僅差で可決された。禁止対象にはムスリム(イスラム教徒)女性が着用するブルカやニカブなども含まれる。

──BBCより引用

 

 

ま、要するにイスラム排除の一環としてなのだけど、ここでいうイスラム教徒のヴェールにはいくつか種類がある。欧米で戸目子がよく見かけるのはヒジャブで、これは顔を隠さないので禁止ではない。

 

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"ルツェルン大学の調査によると、スイスでブルカを着用している女性はほとんどおらず、ニカブを着用している女性は30人程度。同国の人口約860万人のうち約5%がイスラム教徒"

 

一体、スイスはこの約30人の自由を奪ってなにをしようというのか。むしろ、こうした法律ができることで個人レベルのヘイト被害が爆増するわけだが、もしやそれが目的なんか?と疑ってしまう。

 

ヨーロッパにおけるイスラム教徒(ムスリム)のヴェール問題というのは根が深いけど、フランスがとにかくうるさい。ひとつには、フランスの "ライシテ" という「社会における宗教的中立性」が背後にあるが、本来は自由と平等のための手段であったこのライシテが、ここ数十年ではムスリム排除に利用されつつある。

戸目子がパリにいた2011年には、とうとう公の場でのヴェール着用が完全禁止となった。それでも着用する女性をたまーに見かけたが、警官に止められるたび罰金を払いながら貫き通しているのかな。

 

イギリスやフランス、ドイツを筆頭に、ヨーロッパは移民が多い。表立っては9.11のNYテロを機に、その後イスラモフォビア(イスラム嫌悪) は悪化の一途をたどっている。イスラムの文化や慣習の "知識" は圧倒的に不足したまま、「なんとなく怖い」という不安だけが肥大して、なぜか「ヴェールを被るな」(=イスラム色を出すな、受け入れられない、治安に悪そう、共生する気なさそう)とかいった、一方的でかつズレた攻撃にひた走っている。そもそも、彼らはムスリム男性のもじゃ髭にも脅威を感じているのだが、ヒゲは自分らも生やすから禁止できないという。
かくして女性解放において最も先鋭的であったはずのフランスが、ことムスリムに関しては先陣を切って女性差別をしているという皮肉。

 

戸目子も、ムスリム移民やその文化を嫌悪するような発言をするフランス人を何人か見た。彼らは一様に怯えていた。パリがパリでなくなる、おフランスが揺らいじゃう、と。そして、それを堂々と叫ぶのは決まって排外主義的なナショナリストで、「フランスに住みたいならフランスのルールに倣え!」という、自分がたまたまその地に生まれたからってだけで、どっからか湧いてくるらしい誇りと傲慢さでもって他者を抑圧して憚らないのだ。ちなみに、そういう人たちに「"あなたたち" が過去に行った残虐な植民地支配や労働搾取が今の移民問題と直結してることについてはどう考えてるのか」聞きたい。でも、当時の戸目子は「あ〜はいはい、また言うとるわ」くらいの他人事感だった。

それから後シャルリ・エブド事件、欧州での連続テロ、シリア内戦から逃れる大量の難民、英国のブレグジット、そしてトランプの台頭(日本付き)と、世界がどんどんどんどん不穏な方向に。今回の米大統領選ではなんとか最悪を逃れたものの、来年のフランス大統領選では極右国民連合のマリーヌ・ルペンの勝利の可能性が高まっているという。

 

そして、フランス人の一部からそうした発言を聞くことよりも悲しいのは、フランスに住む日本人が無意識にか強者側の差別思想に染まっているのを目にするとき。

「アラブ人が怖い」「(見た目だけで) 理解し合えないと感じる」「自分の子供はアラブ人のいない学校に行かせたい」「移民が治安を悪くしてる」「このイスラムは良くてこのイスラムはだめ」「多文化共生の感覚を持ってなさそう」「存在が脅威になりうるから厳しい規制が必要」etc..

他国で多様性を享受し、自分たちもその多様性の一環である中で、自分とその土地と現地の人を同化させるのは多分にいいことなんだろうけど、スネ夫になったら意味ないじゃん! 奇しくも今(トランプの扇動などを発端に)欧米でアジアンヘイトが少しずつ蔓延ってきている中、強者と一緒になって「イスラム教徒はわきまえるべき」とか名誉白人スピリッツしてる場合じゃないのでは。わきまえようがわきまえまいが差別されてしまう現状が問題なのだ。

 

 

戸目子も怖い思いをしたことが何度かある。それは相手がアラブ人だったりアフリカ系やアジア系だったり白人だったりした。それぞれのシーンはそれぞれ怖かった。でもだからこそ、彼らと彼らの属性(人種や性別など) を切り離して考えなければいけない。感情面で難しいときでも、せめて理性の部分でそこをしっかり理解していなければ、途端に加害側となってしまう自分に気づく。加害者になることの、救いようのない「容易さ」ってのがある。

 

 

 

イギリスではヴェール着用禁止の法律はないが、イスラム嫌いで有名なボリス・ジョンソン氏がヴェールを「郵便ポストみたい」「銀行強盗みたい」と発言して炎上したときの数年前のBBC動画 (↓) が、今回の記事に載っていた。

ちなみに Mr.ビーンで有名なローワン・アトキンソンは、当時この発言を「ナイスジョーク」として擁護した。彼のコメディにおける宗教批判ネタは戸目子も大好きだが、政治家の発言を娯楽と同じ括りで評価するとは、彼もまた、御多分に洩れず典型的な強者視点なんだな、と残念に思う。(郵便ポストは笑えるけどさ・・アンタが国民に言ったらあかんでしょ)

https://www.bbc.com/news/av-embeds/56314173/vpid/p06gzx4d

動画では、4人のムスリム女性がそれぞれヴェールとの付き合い方を語っている。

「誰に強制されたわけでない、アイデンティティであり自分の一部であるヴェールを被ることは自由」

「同化と調和(共生・統合) は別物」

「ヴェールを悪者にして政治利用することが問題」

 

戸目子は特に一番左の人にとても共鳴しました。

「トップ権力をもったミドルクラス(エリート)の白人男性が、その支持者を煽って最も立場の弱い者を攻撃するとは何事ぞ」

「政治や経済の話に口出してるわけでない、社会で活動するマイノリティ女性が自分で選んだ服を着ることと彼に一体なんの関係があんの?」

 

 

 

 

 

 

その日メモ :

コロナで延期された今年のアカデミー賞授賞式。

ここ5〜6年で、映画制作スタッフとアカデミー会員(6000人くらいいる審査員)の人種・性別の割合をガラッと変えた影響をモロに感じる結果が続いている。

世の中、往々にして変化はゆっくりの方がいいというけれど、ここまでドラスティックな変化をたった数年でしてのけるアメリカという国の凄さよ。

 

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フランシス・マクドーマンドの、寝起きと見まごうばかりの自然体もさることながら──

「人が世界で一番のおしゃれをして立つ」はず(主観) のレッドカーペット、今年の映画人たちは全体的にかなりナチュラルだった。それゆえに溢れ出る個性の美しさよ!!!

 

『ミナリ』『ノマドランド』早く観たいわぁ..