戸目子はとある大学の附属高校に通ってたんだけど、ある担任教師が「とりあえず大学だけは出とけ」とけっこう触れ回っていたことを思い出す。理由は、将来の就職に有利だとか、肩書き関連だったと記憶している。もちろん、その費用は親が出すことが前提。出してくれる人がいるうちに乗っからない手はない、というニュアンスもあった。
大好きな先生だったし、当時はへぇ〜そんなもんなんかとしか捉えてなかったけど、今思うと場合によっては害となり得る無責任なアドバイスだと思う。普通科だったら話は違うのかもしれないけど。
高校生の自分に個人的に何か言えるとしたら、あのままどうせあの道を行くならトットと海外に出ろ、あるいは思い切って人生の方向転換をしろ、だ。大学は、なにも二十歳前後の若者だけが行くべき場所ではないし、何十年先であっても本当に学びたいものが出てきた時に学びたい場所で然るべき投資をする、という視点を当時の自分に教えるだろう。
附属高校に行くことはそのまま大学とセットが前提だろうけど、大学に見切りをつけるのに良い機会にもなる。
その大学は、「とりあえず出とけ」というには目眩がするほど高かった。戸目子の実感として、その分の(専門的な)教育効果があったかは疑わしく、附属高校との教育内容の違いもクリアでなかった。それこそ大卒や院卒の肩書き以外に、若さと時間と大金に替えてまでの価値があったと思えず、なんなら当時の自分もそう感じていた。
大学時代の4年間を東京で過ごせて良かったと思うのは、兄との楽しい共同生活や、人生のメンターとなる人との出会いなど、大学とは全く関係のないところ。
戸目子はその担任教師の言葉があろうがなかろうがその大学は行った。当時の自分にはなぜかチョイスがあると思えなかったし、実際なかったと思う。少なくとも「戸目子の声」を聞いてくれる大人はいなかったから、自分の声を吟味したり尊重することもしなかった。
自分の人生に責任を持つことの大切さ、素晴らしさについての教育は充分でない上に、全く別の人間が他者(子供)の人生設計を容易くコントロールしてしまえる日本の社会通念などは、本当に根強い。
「大学だけは出とけ」という彼の言葉は100%の善意からきている。でも、それを聞いた彼の生徒何十人、何百人がどんな人生を将来送り/送りたがり、またその世代が活躍する頃に社会や世界はどう変わっているのか、想像した上の言葉ではなかったと思う。
もちろん今あのアドバイスに心底同意している人や、あの大学に行って本当に良かったと思っている人もたくさんいるだろう。けどこの発言は、教育を受ける側の主体性の問題を始め、たくさんの問題背景を反映しているように思えてならない。
人生設計に関わる若者へのアドバイスは、親、教師、先輩としても、自分の人生ではないからこそとても難しい。世代間の意識/常識のギャップも考慮せないかんし。
ただ、まだ生涯をかけるテーマを確信を持ってつかめていない相手には、"守り"のアドバイスは避けるべきかなと思う。守りの姿勢でいる限り、新しい発見は後回しになってしまうから。慣れ親しんだ居心地の良い”コンフォートゾーン”から意図的に飛び出すことをやった方が人生面白くなること間違いなしである。
...普遍的と思われてきたものまで揺るがされるくらい変化の速い時代になって、自分が得た教訓のみから言えること、歳が上というだけで与えられるアドバイスなんて本当に僅かになっていくのだろう。
3/26 追記 ---
学習院大学。コロナで卒業式は中止となったがホームページに掲載されている卒業生代表の謝辞がすごくいい。謝辞の場ということで賛否両論あるだろうけど、これくらいの矜恃と自負を持って学生時代を過ごせたというのは感・無・量だろうし、羨ましいかぎり。
ひとつ引っかかったのが、「私は素晴らしい学績を納めたので『おかしい』ことを口にする権利があった」という部分。これではせっかく勉学で得たプライドが、他者と比較した上での優越感に成り下がってしまう。果ては危険な優生思想にも繋がりかねない。
学績は関係なく、人は皆おかしいことをおかしいと口にする権利があるし、それを当たり前に受け取る社会であってほしい。
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その日メモ :
1週間ほど前、米大統領選挙(民主党候補)レースでずっと闘ってきたエリザベスウォーレンが撤退した。西/東海岸を中心に涙・涙なんだろうな。訪問先の少女たちに握手しながら「私は大統領選に挑んでいる、ノーマルなことだよ」と伝えて回っていた姿が印象的だ。
今回はとても多様性のある、面白い候補者ばかりだった!そんな中で残ったのがバイデンとサンダースとなったのは皮肉だが、今やあのバカに勝てるなら誰でも、の勢い。
数年前の公聴会でセッションズを、去年はカヴァノーを相手に鮮やかに質問を "迫る" カマラハリスが戸目子のお気に入りで、彼女が出馬/撤退表明したときは全く無関係ながら一喜一憂した。
今や(熱い支持者はいないが一番勝てそうな)ジョーバイデンが有力だが、もし彼が当選したらそのハリスが副大統領に任命されるかもしれないというウワサを聞きつけたここ数日、来たる大統領選祭りが一気に楽しみになった。
プレジデント • ミヤオ